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【むち打ち症解説シリーズ】第6回:回復の分かれ道〜むち打ちが長引く人、早く治る人の科学〜

むち打ち症の回復の約半数は初期3ヶ月で決まり、痛みの強さ6点以上や冷感過敏、不安が長期化のリスクとなる。これらを早期に評価・対処することで慢性化を防ぎ、生活の質を保てます。

 

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この記事を監修している人:奥村龍晃(柔道整復師資格保有)
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こんにちは!

脊柱側弯症専門のフィジカルバランスラボ整体院、
院長の奥村龍晃です。

 

「交通事故でむち打ち症になってしまった…。これって、いつ治るんだろう?」
「周りにはすぐ良くなった人もいるのに、どうして自分の症状は長引いているんだろう?」

患者さんから、このような切実な問いをいただくことがよくあります。

同じ「むち打ち症」と診断されても、驚くほど早く回復する方もいれば、何ヶ月、ときには何年も症状に悩まされる方もいる。
この違いは、いったいどこから来るのでしょうか。

「事故の大きさで決まるんでしょ?」と思われるかもしれませんが、実はそう単純な話ではないんです。
今回は、むち打ち症の回復が「長引く人」と「早く治る人」を分ける科学的な理由について、深く掘り下げていきたいと思います。
ご自身の状況を客観的に理解し、回復へのコンパスを手に入れるための一助となれば幸いです!

 

回復のタイムリミット?「最初の3ヶ月」が運命を分ける

いきなり少し厳しい話から始めますが、これは非常に重要な事実なので最初にお伝えします。

多くの信頼性の高い研究が、むち打ち症からの回復の大部分は、事故後の最初の3ヶ月間に起こることを示しています。

ある大規模な研究では、むち打ち損傷を負った人の約半数、つまり2人に1人は完全には回復せず、何らかの症状が慢性的に残ってしまうと報告されています。そして、回復のペースは3ヶ月を過ぎると著しく鈍化し、停滞してしまう傾向があるのです。

これは、裏を返せば「最初の3ヶ月間」が、その後の回復の行方を左右する、まさに“ゴールデンタイム”であることを意味します。この時期に適切な対応ができるかどうかが、回復への分かれ道になると言っても過言ではありません。

分かれ道を決める3つの「予後予測因子」

では、具体的に何が回復の行方を左右するのでしょうか?

数多くの研究から、事故の物理的な大きさ(例:車の損傷具合)よりも、事故直後のご本人の状態の方が、はるかに重要であることが分かっています。

特に、回復が長引く可能性を示すサインとして、科学的に特に重要視されている「予後予測因子」が3つあります。

1.初期の痛みの強さ

これは非常に強力な予測因子です。単純に言うと、事故直後の痛みが強ければ強いほど、症状が長引きやすいことが分かっています。

多くの研究で、痛みのレベルを0(痛みなし)から10(想像できる最悪の痛み)で評価した際に、「6点以上」の強い痛みを報告した人は、1年後も症状が残るリスクが非常に高いことが示されています。

2.感覚の過敏さ

「最近、なんだか冷たい風にあたるだけで首筋がズキッとする…」こんな経験はありませんか?

実は、冷たい刺激に対して痛みを感じる「冷感痛覚過敏」という現象も、予後が長引くことを示す重要なサインであることが分かっています。

これは、中枢神経感作、つまり神経の警報システムが過敏になっていることを示す客観的な兆候です。本来なら痛みを感じないはずの刺激(冷たさ)にまで、脳が「痛い!」と誤って反応してしまっている状態なのです。

他にも、軽く触れられただけで痛みを感じる(アロディニア)など、感覚が過敏になっている場合は注意が必要です。

3.「心」の状態(心理社会的因子)

そして、これが今回の最も重要なポイントかもしれません。むち打ち症の回復を妨げる最大の要因の一つが、実は「心」の状態、特に「不安」や「恐怖」であることが科学的に証明されています。

「痛いのは身体なのに、心の状態が関係あるの?」と不思議に思うかもしれません。しかし、これには明確な理由があるのです。

最大の敵は「痛み」よりも「不安」?「恐怖回避モデル」の罠

皆さんは、「恐怖回避モデル(Fear-Avoidance Model)」という言葉を聞いたことがありますか?

これは、むち打ち症が長引くメカニズムを説明する上で、非常に重要な考え方です。

  1. 痛みへの恐怖:事故による痛みを経験し、「また動いたら痛くなるんじゃないか」「悪化したらどうしよう」という破局的な思考に陥る。
  2. 回避行動:その恐怖から、無意識のうちに身体を動かすことを避けるようになる(安静にしすぎる、首をかばいすぎるなど)。
  3. 身体機能の低下(廃用):動かさないことで、筋肉は衰え、関節は硬くなり、身体の機能そのものが低下していきます。
  4. さらなる痛みと不安:機能が低下した身体を動かそうとすると、余計に痛みを感じやすくなります。これが「やっぱり動くと痛いんだ」という恐怖をさらに強化し、孤立感や抑うつ状態につながってしまうのです。

まさに、身体を大切にしようと安静にしすぎることが、かえって回復を遅らせ、症状を慢性化させてしまうという皮肉な悪循環。これが「恐怖回避モデル」の罠です。

交通事故という出来事自体が、心に大きな傷(トラウマ)を残すこともあります。事故のことを思い出すだけで動悸がしたり、車に乗るのが怖くなったりする「心的外傷後ストレス症状(PTSD)」を抱えている方は、よりこの負のスパイラルに陥りやすいことも分かっています。

まとめ:あなたの回復の主役は、あなた自身です

今回は、むち打ち症の回復が長引く人、早く治る人を分ける科学的な理由についてお話ししました。

  • 回復の鍵は、事故後の最初の「3ヶ月」が握っている。
  • 回復の行方を左右するのは、事故の大きさよりも「初期の痛みの強さ」「感覚の過敏さ」、そして何より「心(不安・恐怖)の状態」である。
  • 痛みへの恐怖から動かなくなることが、かえって回復を妨げる「負のスパイラル」を生んでしまう。

もしあなたが今、強い痛みや、将来への強い不安を感じているとしたら、それは決して「気のせい」や「気持ちが弱いから」ではありません。それは、科学的に説明できる、身体と脳の正常な、しかし回復を妨げうる反応なのです。

大切なのは、ご自身の状態を客観的に知ること。「自分は今、この負のスパイラルに陥りかけているかもしれない」と気づくことこそが、その連鎖を断ち切り、回復への正しい道筋に戻るための、最も重要な第一歩となります。

では、私たち専門家は、こうした目に見えない「感覚の過敏さ」や「恐怖心」を、どのように評価し、見抜いていくのでしょうか?
次回、第7回:専門家がむち打ち症をどう見るか(評価編)〜症状の裏側を探る思考プロセス〜では、専門家があなたの身体のどこを見て、何を考えているのか、その思考プロセスを少しだけ公開したいと思います。

免責と受診の目安

本記事は参考情報です。痛みが2週間以上続く、しびれや運動制限が強い場合は、速やかに医療機関を受診してください。

 

参考文献

 

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