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【むち打ち症解説シリーズ】第5回:「レントゲンで異常なし」の真実〜画像に映らない“機能”の問題〜

レントゲンで異常なしの診断でも、約70%のむち打ち症患者は神経感作や関節制御障害など画像に映らない“機能”異常があり、これらを定量的検査で評価することで根本改善への最適な治療方針が見つかります。

 

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この記事を監修している人:奥村龍晃(柔道整復師資格保有)
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こんにちは!

脊柱側弯症専門のフィジカルバランスラボ整体院、
院長の奥村龍晃です。

 

「病院でレントゲンやMRIを撮ってもらったんですが、『骨には異常ありませんね』と言われて…。でも、この首の痛みやめまい、手のしびれは確かにあるんです。一体、僕の身体はどうなっているんでしょうか?」

これは、僕が臨床の現場で、むち打ち症に悩む患者さんから本当によくお聞きする言葉です。

検査で「異常なし」と告げられることは、一見すると安心材料のように思えるかもしれません。
しかし、現に存在するつらい症状とのギャップは、「誰にもこのつらさを分かってもらえない」という孤独感や、「原因が分からない」という大きな不安を生み出してしまいますよね。

もしあなたが今、同じような状況で途方に暮れているとしたら、ぜひこの記事を読み進めてください。
その長引く不調の裏には、画像には映らない、しかし非常に重要な「機能」の問題が隠れているのかもしれません。

今回は、なぜ「レントゲンで異常なし」でも症状が続くのか、その真実を科学的根拠に基づいて解き明かしていきます。

パソコンに例えると分かりやすい「構造」と「機能」のちがい

「構造に異常はないのに、なぜ痛むのか?」この疑問を理解するために、少しだけパソコンの話をさせてください。

ここに、見た目はピカピカで、最新の部品(ハードウェア)がすべて揃っているパソコンがあるとします。
これが、いわゆる「構造」に問題がない状態です。
レントゲンやMRIで見る骨や椎間板は、まさにこのハードウェアにあたります。

しかし、そのパソコンの電源を入れても、エラーメッセージばかり表示されたり、動きが極端に遅かったり、頻繁にフリーズしたりすることがあります。
これは、見た目では分からない「機能」、つまりOSやソフトウェアに問題が起きている状態です。

むち打ち症で起こっていることの本質は、まさにこれと同じです。
骨や靭帯といった「構造(ハードウェア)」に大きな損傷はなくても、それらを動かし、コントロールしている神経や感覚といった「機能(ソフトウェア)」に不具合が生じている。
これが、画像検査では見えない不調の正体なのです。

画像には映らない3つの「機能的問題」

では、むち打ち症における「機能(ソフトウェア)」の問題とは、具体的に何なのでしょうか。
主に、以下の3つが挙げられます。これらは、最新の研究によって、むち打ち症の症状に深く関わっていることが分かってきています。

1. 関節の動きの「質」の低下

「首が動く範囲(可動域)が狭くなった」というのは、多くの人が自覚する症状です。
しかし、問題はそれだけではありません。関節の動きの「質」、つまり、動きの滑らかさやタイミング、コントロール能力そのものが低下してしまうのです。

専門的には、これを「感覚運動制御の障害」と呼びます。
例えば、私たちの身体には、目をつぶっていても自分の手足がどこにあるかを感じ取る「固有受容器」という高精度なセンサーが備わっています。
むち打ちの衝撃で首のこのセンサーがダメージを受けると、脳が首の位置情報を正確に把握できなくなります。

ある研究では、むち打ち症の患者さんは健常な人と比べて、目隠しで頭を動かした後に元の位置へ正確に戻る能力(関節位置覚)が有意に低下していることが示されています(JPEテスト)。

この“位置情報のズレ”こそが、第4回でお話しした「めまい・ふらつき」の大きな原因の一つとなるのです。

2. 神経の「働き」の異常(中枢神経感作)

第2回の記事で詳しく解説しましたが、むち打ち症の慢性化において最も重要な概念が「中枢神経感作」です。

これは、事故の衝撃による強い痛みの信号が脳や脊髄に送られ続けた結果、神経系全体の警報システムが過敏になってしまう状態を指します。
いわば、火災報知器が少しの煙でもけたたましく鳴り響くようになってしまったようなものです。

この状態になると、

  • 通常なら痛くないはずの軽い刺激(服が触れるなど)でも痛みを感じる(アロディニア)
  • 痛みが本来の損傷部位を越えて、背中や腕など広範囲に広がる

といった現象が起こります。

これは、骨や筋肉の問題ではなく、痛みを感知し処理する神経システムそのものの「機能異常」なのです。
だからこそ、レントゲンには決して映りません。

3. 感覚の「処理」の混乱

神経が過敏になる(中枢神経感作)と、痛みだけでなく、光や音、温度といった様々な感覚に対しても過敏になることがあります。

  • 「以前より光がまぶしく感じるようになった」
  • 「大きな音が頭に響く」
  • 「寒暖差で体調が悪化する」

これらの症状も、脳における感覚情報の「処理」機能が混乱しているサインかもしれません。
むち打ち症が単なる首の怪我ではなく、脳を含む中枢神経系全体に影響を及ぼす複雑な状態であることが、ここからもお分かりいただけるかと思います。

なぜ「機能」は見過ごされやすいのか?

では、なぜこれほど重要な「機能」の問題が、多くの医療機関で見過ごされてしまうのでしょうか。

その理由は、これらの「機能」を評価するには、特殊な知識と検査が必要だからです。
関節位置覚(JPE)のテストや、どれくらいの圧で痛みを感じるかを調べる定量的感覚検査(QST)などは、まだ一般的に広く行われているとは言えません。

そのため、レントゲンやMRIといった「構造」を見る検査で異常がなければ、「問題なし」という結論に至りやすいのが現状なのです。

「異常なし」は、希望へのスタートライン

もしあなたが「異常なし」と診断され、不安の中にいるのなら、どうか考え方を変えてみてください。

「異常なし」は、「あなたの不調は気のせいだ」ということでは断じてありません。
それは、「幸いにも、骨などの“構造”には大きな問題はなかった」という、一つの重要な情報です。
そして、それは同時に、「これからは“機能”の問題に目を向けるべきだ」という、回復への新たなスタートラインを示してくれているのです。

あなたのその痛み、めまい、しびれには、必ず理由があります。
そして、その理由は「構造」ではなく、「機能」にあるのかもしれません。

正しい評価によってその理由を突き止め、神経の過敏性を鎮め、関節の動きの質を高め、脳の感覚処理を再教育していく。
そうすることで、回復への道は必ず開けてきます。

 

参考文献

「むち打ち傷害後まもなく感覚過敏が生じ、回復不良と関連する」

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12927623/ (PubMed)

「頚部障害における姿勢安定性・頭部および眼球運動制御に影響を与える感覚運動障害」

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17702636/ (PubMed)

「定量的感覚検査と心理因子の縦断的変化と関連:むち打ち関連障害の系統的レビューとメタ分析」

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37517451/ (PubMed)

「むち打ちおよび慢性頚部痛における運動制御パターンの変化」

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18570647/ (PubMed)

「むち打ち傷害後の神経病変の存在と予後:前向きコホート研究」

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40042607/ (PubMed)

 

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