脚を上げて股関節の前が痛んでも、脚を持ち上げる腸腰筋が原因とは限らず、股関節や足の付け根が痛む81人の研究でも場所だけでは原因を見分けられないため、自然に痛んだ場面を記録し、外傷後に体重をかけられない場合は医療機関へ相談しましょう。

この記事の執筆・監修:奥村龍晃(柔道整復師)
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こんにちは!
脊柱側弯症専門のフィジカルバランスラボ整体院、
院長の奥村龍晃です。
はじめに
「靴下を履こうと膝を上げると、足の付け根が痛む」
「車へ乗るために脚を持ち上げた瞬間、股関節の前がつまる」
普段は歩けていても、脚を自分の力で持ち上げるときだけ痛むと、何が悪いのか気になりますよね。
来院時にも、「腸腰筋が硬いから、強く伸ばしたほうがよいですか」と聞かれることがあります。
これは施術後の変化ではなく、よく聞く悩みの一例です。
僕がまずお伝えしたいのは、脚を上げたときの前側痛だけで、腸腰筋、関節、骨盤のどれかを原因と決めないことです。
股関節の前や足の付け根は、関節、筋肉や腱、神経、血管が近くを通る交差点のような場所です。
腰から関連する痛みや、股関節以外の背景が重なる場合もあります。
脚を上げると股関節の前が痛くても、原因を決められない理由

「脚を上げる」といっても、動作は一つではありません。
椅子に座ったまま膝を持ち上げる、立った状態で段差へ足を置く、車へ乗るために脚を運ぶなど、体重のかかり方や身体の支えは異なります。
痛む場所も、足の付け根の深いところ、少し外側、下腹部に近いところなど、人によって違います。
引っかかり、音、しびれ、力の入りにくさが一緒にあるかでも、医師が確認する内容は変わります。
筋肉や腱に関係する痛みのほか、股関節の軟骨がすり減るなどの変化を指す変形性股関節症や、関節の縁にある軟骨(関節唇)の問題もあります。
腰や神経に関係する症状を含め、場所や一つの動作だけで完全に分けることはできません。
「前が痛い」「脚を上げると痛い」という情報だけで、筋肉の炎症や、股関節の骨どうしがぶつかる状態などの病名を自己判断することはできません。
痛みを確かめるために、抵抗をかけて何度も脚を上げたり、強くストレッチしたりする必要はありません。
自然に困った場面と、一緒に起きた症状を記録するほうが安全です。
研究から分かることと限界

2019年には、3か月以上続く股関節または足の付け根(鼠径部)の痛みがある81人を、ある時点で調べた研究があります。
複数の診察と画像などで分類できた70人のうち、股関節由来と判断されたのは33人、47%でした(PMID: 31521142)。
股関節そのものや周辺が関係する痛み(股関節関連痛)の基準を満たした群と、満たさなかった群で、痛む場所の分布に明確な差はありませんでした。
参加者は比較的活動量が多く、専門医療機関を受診した長期痛のある人が中心です。
一般の方すべてへ割合を当てはめることはできませんが、前側や鼠径部という場所だけでは原因を決められないことが分かります。
同じ2019年には、股関節の軟骨がすり減るなどの変化がある変形性股関節症の77人と、腰の神経の通り道が狭くなる腰部脊柱管狭窄症の79人を比べた研究があります。
車への乗り降りで痛むという訴えは、腰部脊柱管狭窄症群より股関節症群で多い結果でした(PMID: 30708114)。
ただし、すでに診断された2群を比べた専門外来の研究で、症状には重なりがありました。
車への乗り降りや脚上げで痛むことは診察の手掛かりですが、それだけで股関節症だとは診断できません。
2025年の系統的レビューは、関節の縁にある軟骨の損傷(関節唇損傷)や、股関節の骨どうしがぶつかる状態などに対する身体検査15研究をまとめました。
対象となった股関節は合計1,378か所でした。
検査ごとの感度と特異度、つまり問題がある人を見つける力と、ない人を見分ける力には大きなばらつきがありました(PMID: 40692936)。
対象は主に16〜60歳程度で、画像や、関節の中をカメラで見る関節鏡など、判定基準も研究ごとに異なります。
それでも、一つの脚上げ動作や、家庭で痛みをわざと起こすテストだけで問題を特定しない、という注意につながります。
2020年の国際合意では、若年から中年の活動的な成人の股関節関連痛を評価するとき、腰など別の筋肉・骨・関節の問題を確認する必要があるとしています。
さらに、感染、腫瘍、繰り返す負担で骨にひびが入る疲労骨折などの重い病気を除外する必要もあります(PMID: 31959678)。
問診、診察、必要な画像を組み合わせて判断する考え方であり、痛む場所だけで原因を決めるものではありません。
自然に痛んだときに記録したい3つのこと

痛みを再現するための脚上げテストはせず、日常で自然に困ったときだけ記録してください。
痛んだ場面と瞬間を記録する
靴下を履く、車へ乗る、段差へ足を置くなど、何をしていたかを書きます。
脚を上げ始めたとき、上げた途中、足を置いて体重を移したときのどこで痛むかも分けます。痛む場所と伴う症状を記録する
足の付け根の中央、少し外側、下腹部に近い場所などを言葉で残します。
引っかかり、音、腫れ、しびれ、脚に力が入りにくい感じの有無も記録します。経過と生活への影響を記録する
いつ始まったか、転倒や外傷があったか、安静時や夜間も痛むかを書きます。
歩行、着替え、階段、睡眠、車の利用にどの程度支障があるかも医師へ伝えます。
痛みを確かめる反復テストや強いストレッチをせず、自然に起きた症状を記録してください。
受診を優先したい症状
2025年の急に起きた股関節痛に関する画像検査の指針では、外傷後の骨折は診察だけでは確実に除外できないとされています。
一般的なレントゲン撮影(単純X線)が最初の画像検査です(PMID: 40409883)。
これは外傷後に急に起きた痛みを対象とした指針で、長く続く前側痛の原因を示すものではありません。
次のような場合は、セルフケアで確かめず、整形外科などの医療機関へ相談してください。
- 転倒や衝突の後から強く痛み、立てない、体重をかけられない
- 股関節周辺に明らかな変形、強い腫れ、熱っぽさがある
- 発熱や強いだるさを伴う
- 安静時や夜間も強く痛む、急速に悪化している
- 脚のしびれや力の入りにくさが広がっている
- 引っかかって動かせない、繰り返し脚が抜ける
- 痛みが続く、強くなる、日常生活に支障がある
外傷後に立てない、体重をかけられない、明らかな変形がある場合は無理に移動せず、自力で安全に移動できない場合は119番へ連絡してください。
急な強い痛みに腫れ・熱っぽさ・発熱や悪寒を伴う場合は、当日中に医療機関を受診してください。
脚の力がだんだん入りにくくなる場合も、様子を見ず速やかに受診してください。
まとめと次の一歩
脚を上げたときの股関節前側痛には、股関節の中の問題や周辺の筋肉・腱、腰、神経など複数の背景があり、場所や動作だけでは原因を決められません。
車への乗り降りで痛むことや、身体検査で痛みが出ることも、診断を確定する情報ではありません。
痛みを再現せず、自然に痛んだ場面、場所、伴う症状、生活への影響を記録してください。
外傷後に体重をかけられない場合や、脚の力がだんだん入りにくくなる場合は速やかに、症状が続く、強くなる場合は期間にかかわらず医療機関へ相談しましょう。
自己流で腸腰筋や骨盤を直そうとせず、症状の記録を医療機関での確認につなげることが次の一歩です。
参考文献
- Hip-related groin pain, patient characteristics and patient-reported outcomes in patients referred to tertiary care due to longstanding hip and groin pain: a cross-sectional study (BMC Musculoskeletal Disorders, 2019)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31521142/ - Comparison of the history and physical examination for hip osteoarthritis and lumbar spinal stenosis (The Spine Journal, 2019)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30708114/ - Sensitivity and Specificity for Physical Examination Tests in Diagnosing Prearthritic Intra-Articular Hip Pathology Are Highly Variable: A Systematic Review (Arthroscopy, Sports Medicine, and Rehabilitation, 2025)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40692936/ - Consensus recommendations on the classification, definition and diagnostic criteria of hip-related pain in young and middle-aged active adults from the International Hip-related Pain Research Network, Zurich 2018 (British Journal of Sports Medicine, 2020)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31959678/ - ACR Appropriateness Criteria Acute Hip Pain: 2024 Update (Journal of the American College of Radiology, 2025)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40409883/
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療を意図したものではありません。
痛みや不調がある場合、運動中に痛みが出た場合は中止し、必要に応じて医療機関にご相談ください。
症状が続く、強くなる、または日常生活に支障がある場合は、期間にかかわらず医療機関にご相談ください。
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