レッドコードの免荷と段階的リハビリで「痛みゼロ」を原則に肩甲骨の可動性と安定性を再学習し、数週間〜数ヶ月で日常動作の改善が期待できます。

はじめに
「腕を上げると痛い」
「夜、寝返りで肩が痛んで目が覚める」
「シャツを着るのがつらい」
こうした肩の痛みを抱えている方は本当に多いです。
僕の院にも、ある50代の女性の方が来院されました。
数カ月前から右肩が痛み出し、病院では「年齢的にしかたがない」と言われたそうですが、動かすと激痛が走り夜も眠れず、痛み止めでもあまり変わらなかったといいます。
肩の痛みは日常生活のあらゆる動作に制限をかけます。
頭上の荷物を取る、洗濯物を干す、満員電車でつり革を掴む――そんな当たり前の動作ができなくなる。
だからこそ、肩の問題は単なる局所の症状ではなく、生活の質そのものを大きく損なう問題です。
なぜ起こるのか――肩の痛みの背景にある”連鎖の乱れ”
肩関節は人体で最も可動域が広い関節である一方、構造的には不安定で傷めやすい場所です。
インピンジメント(肩峰下インピンジメント)とは
肩の骨(肩峰)と上腕骨の間に、腱板や滑液包が挟み込まれて炎症を起こす状態です。
いわば「肩の中の渋滞」。道が狭まり組織が擦れ合うことで炎症と痛みが生じます。
五十肩(癒着性関節包炎)とは
関節包が炎症を起こして癒着し、動かすと痛みが増すため怖くて動かさなくなり、さらに固まってしまうという悪循環が起きます。
これらの背景には「肩甲胸郭リズム」という運動連鎖の乱れがあります。
通常は腕が動くと肩甲骨も協調して動き、上腕骨だけに負担が集中しないようになっていますが、デスクワークやスマホ姿勢、過去の怪我などで肩甲骨を支える筋群(前鋸筋、僧帽筋下部など)が働かなくなるとリズムが崩れ、上腕骨側だけで動かそうとしてインピンジメントが起きやすくなります。
さらに痛みは防御反応(マッスルガーディング)を生み、深層の安定筋が抑制されることで代償動作が増え、慢性化していきます。
解決の方向性――免荷で守りながら、段階的に再学習する
一般的なリハビリは「痛みを取る→徐々に動かす→筋力をつける」という流れですが、痛みを無理に我慢して動かすと防御反応が強まり改善が遅れることがあります。
レッドコード整体の核心は免荷(負担を軽くする)にあります。
天井から吊るしたスリング(ロープ)で腕を支え、重力の影響をほぼ取り除くと、肩関節の負担が軽減されます。
無重量に近い環境では筋肉がリラックスし防御反応が解除されやすくなります。
段階的アプローチ(3ステップ)
- 痛みなく動ける範囲を確認する
免荷環境で痛みゼロの範囲を探します。
痛みが出たら中止し、負荷を下げます。
痛みゼロの範囲が再学習の出発点です。 - 肩甲骨の動きを再構築する
免荷状態で肩甲骨を前後・上下・回旋させる運動を段階的に行います。
レッドコードのわずかな不安定性が深層安定筋を刺激し、本来の働きを思い出させます。 - 運動連鎖全体の協調性を高める
肩甲骨・体幹・骨盤の連動を取り戻すエクササイズへ進め、免荷を少しずつ減らしていきます。
代償が出たら負荷を下げてフォームを整えます。
この段階設計は、スリングを用いた研究などでも支持されており、免荷環境で痛みなく動かすことで疼痛や機能が改善する報告があります。
肩障害そのものに対する大規模研究は今後の課題ですが、機序と臨床経験の両面から期待できるアプローチです。
今日からできること――痛みゼロで肩甲骨を動かす
レッドコードがなくても安全にできるセルフケアを3つ紹介します。
必ず痛みが出ない範囲で行ってください。
1. 肩甲骨時計(壁を使った安全版)
壁に向かって立ち、両手を壁に軽く当て肘は軽く曲げます。
痛みのない範囲で肩甲骨だけを前後・上下に動かす。
目安は10回×2セット、1日1回。痛みが出たら中止してください。
2. 振り子運動(ペンデュラム)
テーブルに片手をついて上半身を軽く前傾させ、痛い側の腕を脱力してぶら下げます。
重力で腕が自然に下がる感覚を感じたら、小さく前後・左右に揺らします。
目安は各方向10回、1日2回。
筋肉を使わず重力と慣性に任せるのがポイントです。
3. 肩甲骨の寄せ・開き(座位で安全に)
椅子に座り背筋を軽く伸ばします。
両手を胸の前で組み、息を吐きながら肩甲骨を開く(背中を丸める)、吸いながら寄せる(胸を張る)を繰り返します。
目安は10回×2セット、1日1回。
痛みが出たら範囲を小さくするか中止してください。
まとめと次の一歩
肩の痛みは局所の炎症だけでなく、肩甲骨の動きや全身の運動連鎖の乱れから生じることが多いです。
レッドコード整体は免荷環境で痛みなく動ける範囲を見つけ、肩甲骨の安定性と協調性を段階的に再構築します。
重要なのは「痛いのを我慢して動かす」のではなく、「痛みなく動ける範囲を少しずつ広げる」こと。
「もう治らない」と諦めかけていた肩の痛みも、正しいアプローチで少しずつ動けるようになります。
できることから少しずつ始めてください。
PBLでは肩の初回評価で、あなたの肩がどこでつまずいているのか、どんなアプローチが適しているかを丁寧にお伝えしています。
もし肩の痛みでお悩みなら、一度専門家に評価を受けることをお勧めします。
参考文献
肩峰下インピンジメントにおける肩甲骨安定化エクササイズ訓練の効果:ランダム化比較試験(Arch Phys Med Rehabil, 2017)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28652066/ (PubMed)肩峰下痛症候群に対する肩甲骨安定化エクササイズの有効性:系統的レビュー(2024)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38497039/ (PubMed)肩インピンジメント症候群に対するストレッチ&筋力強化運動の効果:徒手療法併用の有無による比較(J Orthop Sports Phys Ther, 2015)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26471852/ (PubMed)凍結肩(五十肩)の理学療法(運動療法+モビライゼーション)の有効性:系統的レビュー(Physiother Res Int, 2014)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24284277/ (PubMed)スリング・サスペンション(レッドコード系)を用いた能動的肩運動の効果:急性期脳卒中の肩亜脱臼・痛み・上肢機能を改善(Med Sci Monit, 2019, RCT)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31256191/ (PubMed)
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