むち打ち後の痛みは首だけの問題ではなく、約86%の患者が背中や腕など首以外にも痛みを感じる“中枢神経感作”によって全身に広がる仕組みを理解することが回復の第一歩となります。

この記事を監修している人:奥村龍晃(柔道整復師資格保有)
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こんにちは!
脊柱側弯症専門のフィジカルバランスラボ整体院、
院長の奥村龍晃です。
はじめに:その痛み、本当に「首だけ」の問題ですか?
「先生、事故の後から首だけじゃなくて、背中や肩、時には腕まで痛むんです。なんだか関係ないところまで痛みが広がっている気がして…これって、一体何が起こっているんでしょうか?」
これは、僕がむち打ち症の患者さんから非常によくお受けする質問の一つです。
交通事故で首を痛めたはずなのに、なぜか頭痛がしたり、背中が重苦しくなったり、腕がしびれたり…。
時間が経つにつれて、痛む場所が増えていくような感覚に、多くの方が不安を覚えます。
「気のせいかな?」「考えすぎかな?」と思ってしまうかもしれませんが、それは決して気のせいではありません。
その痛みの広がりには、「中枢神経感作(ちゅうすうしんけいかんさ)」という、科学的に解明されつつある明確な理由があるのです。
今回のブログでは、この少し難しい専門用語「中枢神経感作」の謎を、どこよりも分かりやすく解き明かしていきます。
なぜむち打ちの痛みが全身に広がるのか、そのメカニズムを知ることは、ご自身の身体に起きていることを正しく理解し、不安を解消するための第一歩です。
痛みの警報システムが「誤作動」する?中枢神経感作とは
「中枢神経感作」と聞くと、何やら恐ろしげなものを想像するかもしれませんね。
でも、安心してください。これは決して珍しい現象ではありません。
簡単に言うと、「中枢神経感作」とは、身体の痛みを感じる警報システム(神経系)が、事故の衝撃によって過敏になり、誤作動を起こしている状態のことです。
家の火災報知器をイメージしてみてください。
正常な状態であれば、本当に火事(=ケガ)が起きた時だけ、正確に警報を鳴らしてくれます。
しかし、一度大きな衝撃で故障してしまうとどうでしょうか?
- ほんの少しの煙(=軽い刺激)でも、けたたましく警報が鳴り響くようになる。(痛覚過敏)
- 火事ではないのに、料理の湯気などでも警報が鳴ってしまう。(アロディニア:通常は痛くない刺激で痛みを感じる)
- さらには、隣の家の火事(=関係ない場所の刺激)にまで反応して、警報を鳴らし始める。(関連痛)
むち打ち後の身体で起きているのは、まさにこの「火災報知器の誤作動」に似た状態なんです。
首の組織が受けたダメージが引き金となり、脳や脊髄といった神経の中心部(中枢神経)が興奮し、いわば“パニック状態”に陥ってしまいます。
その結果、本来であれば問題のないはずの弱い刺激に対しても「痛い!」という警報を鳴らし、さらには首から遠く離れた場所にも痛みの信号を送ってしまうのです。
「首だけじゃない」は科学的な事実
「本当にそんなことが体の中で起こるの?」と疑問に思うかもしれません。
しかし、この「痛みの広がり」は、多くの科学的研究によって裏付けられています。
ある信頼性の高い研究報告では、むち打ち損傷後の患者さんを調査したところ、驚くべき事実が明らかになりました。
- 首だけの痛みを訴える患者さんは、全体のわずか0.43%しかいなかった。
- 86.2%もの患者さんが、首以外の場所にも痛みが広がっていた。
- 特に多かったのが胸椎(背骨の真ん中あたり)の痛みで、その割合はなんと66%にものぼりました。これは頭痛(60%)よりも多い数字です。
このデータが示すのは、むち打ち症の痛みが「首だけにとどまらない」のがむしろ当たり前で、全身に症状が広がることは決して珍しいことではない、という事実です。
ですから、「背中も痛い」「腕がしびれる」といった症状は、事故とは無関係の、全く別の問題だと切り離して考えるべきではありません。
それらはすべて、事故の衝撃から始まった一連の「中枢神経感作」という現象の一部である可能性が高いのです。
なぜ、「知ること」が回復への第一歩なのか
ここまで読んでくださったあなたは、もしかしたら「自分の症状も、この中枢神経感作かもしれない」と感じているかもしれません。
「原因が分かっても、痛みが消えるわけじゃない…」そう思う気持ちもよく分かります。
しかし、ご自身の身体に何が起きているのかを正しく理解することは、回復への道のりにおいて、非常に重要な意味を持ちます。
1. 不安の軽減: 原因不明の痛みが広がることほど、不安なことはありません。「気のせいではなかったんだ」「身体の中でこういう反応が起きていたんだ」と分かるだけで、心の負担は大きく軽減されます。不安やストレスは、痛みをさらに増強させてしまう悪循環の原因になるため、この心の平穏を取り戻すことが、まず大切です。
2. 適切な対策への道筋: なぜ痛みが広がっているのかが分かれば、取るべき対策も明確になります。単に痛む場所をマッサージするだけでは不十分で、「過敏になった神経系をどう落ち着かせるか」という視点が必要になることが理解できます。これは、専門家と共に回復への正しい戦略を立てる上で、不可欠な知識となります。
3. 主体性を取り戻す: 「自分の身体は、今どうなっているんだろう?」という受け身の姿勢から、「なるほど、だからこういうケアが必要なんだ」という主体的な姿勢へと変わることができます。この主体性こそが、つらい症状を乗り越えていく上で、最も力強い原動力となるのです。
まとめ:その痛み、一人で抱え込まないで
今回は、むち打ち症の痛みが首だけでなく全身に広がる謎、「中枢神経感作」について解説しました。
- むち打ちの痛みは首だけに留まらないのが普通で、背中や腕など広範囲に及ぶことが多い。
- その原因は、神経の警報システムが過敏になる「中枢神経感作」という現象。
- このメカニズムを正しく知ることが、不安を和らげ、回復への第一歩を踏み出すことにつながる。
もしあなたが今、原因の分からない痛みの広がりに悩んでいるのなら、それは決してあなたの気のせいでも、考えすぎでもありません。
あなたの身体の中で、科学的に説明のつく変化が起きているのです。
そして最も大切なことは、そのつらい症状を一人で抱え込まないことです。
次回のブログでは、むち打ち症において見過ごされがちな「胸椎」の重要性について、さらに深く掘り下げていきます。
参考文献
慢性むち打ち損傷における中枢神経感作の証拠:系統的文献レビュー
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23008191/ (PubMed)
むち打ち損傷直後に感覚過敏が発生し、予後不良と関連する
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12927623/ (PubMed)
むち打ち関連障害後の広範な疼痛:発生率、経過、危険因子
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17143964/ (PubMed)
むち打ち関連障害における広範な痛覚過敏と深部組織痛の時間的加算の亢進:女性を対象とした探索的研究
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22729792/ (PubMed)
むち打ち損傷後の心的外傷後ストレス症状と痛み感作:定量的感覚検査による縦断コホート研究
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35782223/ (PubMed)
むち打ち関連障害における定量的感覚検査と心理要因の経時変化と関連性:系統的レビューおよびメタ解析によるデータ統合
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37517451/ (PubMed)
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