交通事故後のむち打ち症は、首の捻挫と軽視されがちな加速・減速損傷が頸椎・靭帯・神経根などに微細な機能障害を引き起こし、実に42〜50%が1年以上痛みに悩まされる重篤なWADです。

この記事を監修している人:奥村龍晃(柔道整復師資格保有)
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こんにちは!
脊柱側弯症専門のフィジカルバランスラボ整体院、
院長の奥村龍晃です。
「交通事故に遭ってから、首が痛くて…整形外科では『骨に異常はないから、ただの捻挫ですね』と言われたんです。でも、日に日に痛みは強くなるし、なんだか頭も痛いし、不安で…」
多くの方が、交通事故後の首の痛みを「むち打ち症」と呼び、それを「首の捻挫のようなもの」と捉えていらっしゃいます。
もちろん、その認識は間違いではありません。
しかし、もしその痛みが、単なる捻挫という言葉だけでは到底説明のつかない、もっと複雑で根深い問題を身体が発している悲鳴だとしたら、どうでしょうか?
このブログシリーズでは、そんな「むち打ち症」の本当の姿について、全10回にわたり、最新の科学的根拠に基づいて、世界で一番分かりやすく解き明かしていくことをお約束します。
「むち打ち症」は、病名ではない?
まず、非常に重要なことからお伝えします。実は、「むち打ち症」というのは正式な病名ではありません。
医学的には「むちうち関連障害(Whiplash Associated Disorders: WAD)」と呼ばれ、これは1928年に初めて定義された「首の加速・減速による損傷」に端を発します。
つまり、追突などの衝撃によって頭部が鞭(むち)のようにしなることで引き起こされる、首を中心とした様々な症状の“総称”なのです。
「総称」というところがポイントです。
風邪を「急性上気道炎」と呼ぶように、そこには咳、鼻水、発熱など様々な症状が含まれますよね。
同様に、WADにも首の痛みだけでなく、頭痛、めまい、吐き気、腕のしびれ、背中の痛みなど、実に多彩な症状が含まれるのです。
なぜ、むち打ち症は長引くのか?約半数が慢性化する“不都合な真実”
「捻挫なら、2〜3週間もすれば治るだろう」
多くの方がそう考えるかもしれません。しかし、現実はもっと厳しいものです。
ある研究では、むち打ち症を経験した人の約半数(42%〜50%)が、事故から1年が経過しても何らかの症状に悩まされ続けているという、衝撃的なデータが報告されています。
なぜ、これほど多くの人が後遺症に苦しむのでしょうか?
その最大の理由は、むち打ちの衝撃が、私たちが想像するよりも遥かに複雑なダメージを、首の内部構造に与えているからです。
- 衝突直後: まず、背骨全体が上へと突き上げられ、頸椎(首の骨)はS字を描くようにしなります。
この時、首の下の部分は過度に「伸展(そる動き)」し、上の部分は「屈曲(うなずく動き)」するという、極めて不自然な状態に陥ります。 - 反動: 次に、その反動で頭部全体が前後に激しく振られます。
この一瞬の、しかし強烈な「S字運動」と伸展・屈曲の強制によって、首の周りにある非常に繊細な組織、例えば、椎間関節、靭帯、神経根、椎間板、そして筋肉などが、目に見えないレベルで微細な損傷を負ってしまうのです。
これが、単なる「捻挫」という言葉では片付けられない、むち打ち症の第一の正体です。
「レントゲンで異常なし」の壁と、その向こう側にある真実
「病院でレントゲンやMRIを撮ったけど、『骨に異常はありません』の一点張りで…。
こんなに痛いのに、誰にも分かってもらえないのが一番辛いです」
これもまた、多くの患者さんが抱える、深く、そして孤独な悩みです。
ご安心ください。あなたが感じているその痛みは、決して「気のせい」ではありません。
レントゲンやMRIといった画像検査は、骨折や脱臼、大きな椎間板ヘルニアといった「構造的な異常」を見つけるのは得意です。
しかし、むち打ち症の本質は、そこにはありません。
むち打ち症の本当の問題は、目に見えない「機能的な異常」にこそ隠されています。
- 神経の誤作動: 衝撃によって、首の位置や動きを脳に伝えるセンサー(固有受容器)がダメージを受け、脳がパニックを起こしている状態。
- 筋肉の過緊張: 首を守ろうとする防御反応で、筋肉がガチガチに固まり、血流が悪化して痛みを発している状態。
- 関節の動きの質の低下: 繊細な関節包や靭帯が傷つき、関節がスムーズに動かなくなっている状態。
これらは、どれだけ高性能な画像検査でも捉えることができません。
だからこそ、「異常なし」という言葉が、あなたを深く傷つけてしまうのです。
重症度を分ける「ケベック分類」とは?
専門家の間では、WADの重症度を客観的に評価するための世界的な基準として「ケベック・タスクフォース(QTF)分類」というものが用いられます。
- Grade 1: 首の痛み、こわばり、圧痛のみ。診察では客観的な異常所見がない状態。
- Grade 2: 首の症状に加え、可動域制限や明らかな圧痛など、筋骨格系の異常所見が認められる状態。
- Grade 3: 上記に加え、しびれや感覚の異常、力の入りにくさといった神経学的な異常所見が認められる状態。
- Grade 4: 骨折や脱臼が認められる状態。
多くのむち打ち症は、このGrade 2に分類されます。
つまり、「骨には異常はないけれど、筋肉や関節の機能には明らかに異常が起きている」という状態です。
あなたが感じている痛みや動かしにくさは、まさにこの「機能的な異常」の証明なのです。
この解説シリーズが、あなたの羅針盤となるために
このシリーズを通して、僕があなたにお届けしたいのは、単なる情報ではありません。
それは、希望であり、ご自身の身体と向き合うための羅針盤です。
- なぜ、首以外の場所まで痛くなるのか?(第2回)
- なぜ、首の治療だけでは不十分なのか?(第3回)
- なぜ、めまいやふらつきが起きるのか?(第4回)
- 回復が早い人と、長引く人の違いは何か?(第6回)
これから続く9つの記事を通して、これらの疑問一つひとつに、科学の光を当てていきます。
ご自身の身体の中で何が起きているのかを正しく、そして深く理解すること。
それこそが、漠然とした不安を打ち消し、回復への道を主体的に歩み始めるための、最も確実な第一歩となります。
この長い旅路の終わりには、きっとあなたも、ご自身の身体の声を聴き、希望を持って未来へ踏み出すことができるはずです。
次回は、むち打ちの痛みが全身に広がる恐ろしいメカニズム、「中枢神経感作」の謎に迫ります。
参考文献
むち打ち症(WAD)の経過と予後因子に関する国際タスクフォース報告
(原題:Course and prognostic factors for neck pain in whiplash-associated disorders (WAD))
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18204405/慢性むち打ち症における中枢性感作のエビデンス:系統的レビュー
(原題:Evidence for central sensitization in chronic whiplash: a systematic literature review)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23008191/むち打ち症患者の関節位置感覚および静的バランス能力の変化:メタアナリシス
(原題:A meta-analysis and systematic review of changes in joint position sense and static standing balance in patients with whiplash-associated disorder)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33831060/ケベック分類の予後予測的有用性に関する研究
(原題:Prognostic value of the Quebec Classification of Whiplash-Associated Disorders)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11148643/むち打ち症に対する運動療法の効果:系統的レビューとメタアナリシス
(原題:Exercise therapy for whiplash-associated disorders: a systematic review and meta-analysis)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34561976/
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